【女性バスケコーチ】リズ・ミルズ(Liz Mills)
【女性バスケコーチ】リズ・ミルズ(Liz Mills)

【女性バスケコーチ】リズ・ミルズ(Liz Mills)

【女性バスケコーチ】リズ・ミルズ
「ブーツを履いたコーチ」がアフリカバスケ界で成功した理由

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「すいません、私に彼らの練習やらせてくれませんか?」
約10年前、リズコーチは友達に誘われてザンビアに試合を見に行ったあと、そのチームのジェネラルマネージャーのところに行き自ら聞いた。これが彼女のアフリカでのバスケットボールの始まり。
現在、彼女は、NBA/FIBAアフリカリーグの初めての女性ヘッドコーチを務め、モロッコ男子チーム初の女性ヘッドコーチ。アラブ地域としても女性ヘッドコーチが男子チームを牽引するのは彼女が初めて。今では様々なトークセッションにも呼ばれ、「ブーツを履いたコーチ」としてアフリカのバスケ界で名を馳せている。
また、双子の姉妹で、世界で初めての『国際バスケットボール女性コーチネットワーク』(the Global Women In Basketball Coaching Network)を創設し活動を始めたところだ。

彼女はアフリカで0から始め、どうやってこの映画のようなサクセスストーリーを生み出したのか?
彼女の成功の秘訣は何なのか?
早速リズコーチから学ばせてもらいましょう。

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目次

[コーチングについて]
  バスケとの出会いと好きなところ
  強いチームワークづくりのポイント
  コーチングの何が好き?
  コーチになったきっかけ
  コーチをしていて幸せな瞬間
  一番大変なこと
  忍耐力の源
  ヒールブーツを履く理由
  コーチングで意識していること
  仕事での目標
  コーチを引退したら
  WNBAコーチなりたい?
  女性コーチならではの話
[余談]
[アフリカのバスケについて]
  アフリカに来たきっかけ
  男子チームのコーチを始めたいきさつ
  アフリカバスケの魅力
  アフリカバスケはアメリカに勝つ!?
  チーム移籍の基準
  チームの成功の定義
  アフリカにとってバスケとは
  アフリカでの女性スポーツと宗教
  子供たちのバスケ環境
[人生について]
  どんな環境で育ったの?
  オーストラリアとアフリカでのチームづくりの違い
  違う文化に適応するには
  一番影響を受けた人
  人生の夢
  好きな言葉
[女性コーチ/プレーヤーへのメッセージ]

[コーチングについて]

Q:バスケットボールを始めたきっかけと好きなところとを教えてください

A:ネットボールって聞いたことある?オーストラリアで行われているスポーツ。特に女子がよくやるスポーツで、私もよくプレーしてた。それで、10歳の頃、オーストラリア女子代表チームのバスケを見始めたの。そしたら強い女子バスケを見るのが大好きになったの。更に監督も女性だったし。1990年代や2000年の始めには珍しいことでしょ。女性チームだって監督はいつも男性だったから。それで、見るのが本当に大好きだった。面白くて、迫力があって、スポーツマンでかっこいい。オフェンスもディフェンスもどっちもあるしね。私、双子のせいか、チームでやることが好きなんだ。他の人と一緒に成功を掴むの。それにはバスケはもってこいのスポーツだったんだよね。
 
Q:ということは、バスケの中のチームワーク要素が好きなのですか?
A: 正にそう。目標を達成するために、他の人と一緒に努力するのはすごくやりがいがある。一緒に一生懸命努力して分かち合う成功は、自分1人の成功よりずっと価値がある
 

Q:チームワーク作りで苦労したことはありますか?

A: もちろん。いつだって挑戦。自分がプレーしてたころも苦労はあるけれど、コーチとしてのほうが大きいわね。違う文化の人がいて、いろんな個性があって、経験も違う。だから共通の土台を見つけることが大事。優勝とか予選通過とか成功とか。みんなが賛同する目標を見つけて、納得できる戦略を立てる。「勝ちたい」って言うだけでは不十分。どうやって勝つか、どうやってみんなをやる気にさせるか。そのためには、お互いを思いやっていることがわかるような、お互いを尊敬していることがわかるような関係を築くの。それが強いチームのつくり方。
 

Q:コーチングの何が好きですか?

A: 関係性を築いて、みんなで目標に向かって努力することが好き。コート上では、私が選手たちの成長をお手伝いするけど、コート外では私が選手から学んでる。会社にいるような感じね。みんながお互いから学ぶ。それがチームのコーチングのいいところ。
 

Q: コーチになったきっかけは何ですか?

A: オーストラリア女子バスケットボールリーグWNBL(Women’s National Basketball League)を見たことね。ヘッドコーチが女性だったの。「将来あの人みたいになりたい」って思ったわ。成功者で賢くてパワフルなリーダー。なりたい人物像を目にするってすっごく大事なことだと思う。もし彼女たちのかっこいい姿を見ていなかったら私はたぶんコーチになろうなんて考えもしなかった。彼女たちを見たから「私がジュニアクラブでやってることだ。もっと正式にやろう。」と考えて、大学でスポーツマネージメント/スポーツ科学で学士号を取って、コーチングで修士号をとった。これが私の道、って決めたのは明らかにWNBLのコーチ達の影響だね。
 

Q:コーチをしていて一番幸せな瞬間はいつ?

A:去年、ケニアでアフロバスケットの選手権を勝ち取った時かな。これにはいくつかの理由があって、まず、そのチームは28年間予選を通過していなかった。つまり28年間アフロバスケットには出場できてなかったってこと。で、あの時、11度のアフリカチャンピオンになっていたアンゴラを私達が破ったの。すごくいいチームだった。私にとっては、FIBAコンチネンタルチャンピオンシップの選手権を獲得させた初の女性コーチになった瞬間だった。
2012年にアフリカに来て間もない頃、私がザンビアのコーチをしてた時、当時の南アフリカンクラブチャンピオンシップで初めてアンゴラと対戦したの。アンゴラは私達に30、40点差で勝ったわ。全然歯が立たなかった。それで私は決めたの。「チームを育てて、このアンゴラを倒して、アフロバスケットに出場する最初の女性コーチになってやる」って。それで10年後のこの結果。アンゴラを倒してアフロバスケットに出場できた。
だから私にとっては、因縁の対決みたいなものね。10年かかった。いいこともいやなこともいろいろあったけど、20数年ぶりにアフロバスケットに戻れて、アフロバスケットでの初の女性コーチになれて、ようやく目標を達成できた試合。たぶんあれが一番幸せだった瞬間。すごく長い道のりだったもの。根気と逆境に負けない強さと目標に集中したその結果だからね。

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Q:一番大変なことは何ですか?

A:それぞれのエゴを調整すること。選手たちのエゴをいい方向に持っていくのが大変だね。女子チームだとどうかわからないけど、ここはかなり時間がかかる。もっといい時間の使い方がないものかと思ったりもするけど、男子バスケでは単純にやらなければならないことなのよ。「チームのことに集中しよう」って言うだけじゃなくて、選手たちのエゴを調整しなければならない。
Q:選手達はコート上でもめたりするのですか?
A:すごくイガイガすることがある。時々頭が沸騰しすぎて、口喧嘩や手を出しちゃうこともある。これは女子チームでもあるでしょ。私にとっては自然のことなんだけどね。人って勝ちたいし、向上心があるじゃない。お互いを高めようとしてるだけ。だから必ずしも悪いことだとは思わないけど、収拾がつかなくなったら仲介に入ってる。
あと、女性コーチならではだけど、時々、自分のチーム内の闘いではなくて、相手チームとの闘いになったりもするね。私をヘッドコーチとして尊重しないの。そういう時は、これは挑戦なんだ、って考え方を変えてる。時々あるのよ。
 

Q:その忍耐力はどうやって身についたのですか?

A:これはたぶん両親とか姉妹から植え付けられたものだと思う。失敗したら立ち上がる。上手くいかなかったら他の方法をやってみる。それと、私は責任ある模範となる人でありたいと思ってる。私が今やってることをやっている女性は他にいないせいか、世界中の人から、特に女性コーチ、時には男性コーチからも、「あなたは私たちに必要なロールモデルだ」って言われることがあるの。だから私は、目立つように、はっきりと話して、模範を示せるように心がけているわ。辛くなったときには、「続けなきゃ。女性が男子チームをコーチングできることを私が証明するんだ。この人達が見ててくれてるんだから」ってモチベーションを上げて自分を鼓舞してる。彼らは私を頼ってくれてるんだから、失望させたくない。人の期待を裏切るのは絶対にいや。その思いがモチベーションとなってるの
 

Q:試合にヒールブーツを履くのは何かこだわりがあるのですか?

A:この10年でアフリカでの私のトレードマークになってるね。
WNBLの女性コーチ達を見た時に、みんなビジネススーツを着てたの。必ずしもヒールではないけど、いつもプロフェッショナルに見えた。スタイルはそれぞれで、どれが正しいとか悪いとかではないけど、私にとってはバスケの試合はビジネス。私の仕事時間なの。チームのウェアも着るけど、プロフェッショナルさを出したい。もし私がどこかのオフィスで働いていたらきっとブーツを履いてる。ブーツを履いて、ブレザーを着て、コートを羽織ってる。だから同じような恰好をしているだけ。
プロであること、それと、「そうです、私は女性です。女性であることに誇りを持っています。」という私なりの表現。ブーツは特に目立つからメッセージ性が強くていいと思ってる。だからこだわってるの。自分のブランド作りにもなってるわね。ブーツを見て私だって気づいてくれるもの。普通のヒールシューズに変えてみたことがあるんだけど、そしたらみんなが「あのブーツのコーチはどこ?」ってキョロキョロしてたよ(笑)。
Coach Liz Mills - AfroBasket 3
 

Q:コーチングで意識していることは何ですか?

A:関係作りだね。いい関係作りは、相手への尊重・理解・責任があってこそ。この3つがすごく大切。好きな相手なら簡単かもしれないけど、あまり好きじゃない相手の場合は、この原点に立ち戻る。尊重・理解・責任。そして相手の立場に立って考えること。コーチングって結局のところ関係性なのよね。どんなに戦術に長けているかとか戦略家であるかとかなんて関係ない。コーチがプレーヤーを尊重していることが伝わってなければ、関係を築いたところで相手にされない。これが私のコーチングの基本。
 

Q: 仕事での目標は何ですか?

A: ワールドカップかオリンピックで、アフリカの男子チームを率いる初の女性ヘッドコーチになること。それが私の目標。
それから、女性のスポーツや女性コーチの認知を広げ続けて、男女平等の世界を作っていきたい、というのがコーチ以外での目標。特にコーチは、スキルや経験や能力で採用されるべきで、他の事なんて関係ない。男であろうが女だろうが、ノンバイナリーであろうがね。必要なのは、スキルと経験と能力、この3つだけ。
 

Q:バスケコーチを引退したら何かの組織を作る予定ですか?

A: 友達と話ししてて、講演とかコンサルティングとか・・・リーダーシップ・男女平等・機会平等を促進する会社をつくるか・・・何かそういう影響を与えられることをしようを思う。会社、スポーツクラブ、政治とかに関わっていく感じかな。手段はなんであっても、私達のスポーツでの経験を活かして、あらゆる意味で社会をより良くすることをしたい。あと、女性コーチのメンターにも挑戦したい。これも私が情熱を持っていることだね。アフリカを中心に考えてはいるけど、場所はどこでもOK。
2022年8月に、世界女性バスケットボールコーチングネットワーク(Global Women In Basketball Coaching Network)を設立したのよ。このバスケットボールコーチングネットワーク(WIB)は、世界初の国際的な女性バスケコーチのネットワークで、ミッションは、世界中の女性コーチを繋ぐプラットフォームをつくって、話をしたり勇気づけたり、成功するようにお互いを高め合うこと。
 

Q:WNBAでコーチをするチャンスがあったらやりたいですか?

A:それ面白い質問だよね、実際よく聞かれることあるんだよ。
私はもう10年、男子バスケをコーチしてるから、残念ながら、昔のような目では女子バスケを見ていない。男子バスケや、アフリカのチームや、ヨーロッパでプレーするアフリカのプレーヤーを見てる。それで、私、健康的なバランスが大事って思ってるのね。もし、女子のゲームも同じように見始めたら、年中無休でバスケ漬けになっちゃう。だから、女子のコーチをしてないからWNBAも考えたことがないね。どっちもバスケであって、私は男子バスケにいて、男子リーグのコーチングに集中している。だからといって、NBAでコーチしたとも思ってないけどね。アフリカでコーチしてたいのよ。ヨーロッパでまだ勉強することはあると思うけど、私はアフリカのバスケを発展させることに情熱を持ってる。ヨーロッパでコーチするとかアジアでコーチするとかがあっても、それは経験してより優れたコーチになるため。でもWNBAは考えてないわ。
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Q:女性アシスタントコーチや女性スタッフがチームにいたらいいなと思ったことはありますか?

A:あるね。BALのセネガルのクラブチームの女性アシスタントコーチをしている人がいて、すごくいい仕事をしてたの。この人が同じチームだったらなって思った。あと、私、女性のメンターもいないの。いつも男性メンターに聞きに行くんだけど、たまに、女性に話たい時はある。ただただ話してスッキリしたいっていうことがあるじゃない。男性にはそれができないから、たまに寂しさを感じることはあるわね。

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余談

: 是非日本にも来て!日本も女性コーチの育成が必要だよ。
リズ:日本行きたいね。日本でプレーしてたプレーヤーが私のところにもいるよ。良かったこといろいろ聞いたわ。性別のことだけが問題だよね・・・私が行かなきゃだね(笑)。
日本女子チームすごいね。
:そうだね。オリンピックで銀メダルだったね。
リズ:そうそう。だけど、コーチは男性なんでしょ?
:うん。トム・ホーバスさんだったよ。
リズ:そこだよね。
:オーストラリアはどう?バスケ強いよね。
リズ:FIBAランキングで2位の国だよ。他の国の人はオーストラリアのコーチやプレーヤーをすごくリスペクトしてる。正直いって、私もアフリカでコーチを始められたのは、オーストラリア人であることも助けになってたと思う。オーストラリアに戻ったとしたらコーチはしないけどね。
:やりたくないの?
リズ:オーストラリアのバスケは男子社会なの。ものすごく男。それに、私はもう10年もオーストラリアのバスケからは離れているし、クラブにも所属していない。彼らにしたら、私は「どこか他の人」なんだよね。これは私にはどうすることもできない。
:それって寂しい・・・
リズ:寂しいことではあるけれど、でも私は、他のコーチ達に対しても思うけど、自分の殻から抜け出したらいいと思ってる。シドニーで生まれたからシドニーでコーチしなければいけないわけではない。世界には絶好のコーチングチャンスがある。コーチとして上達するだけではなく、人生の経験としてね。もし私が日本でコーチしたら、個人的にすごくいい経験になるでしょ。私はそこを考えてるの。多くのコーチは、人生の経験がいいコーチを生み出すっていうことをわかってないのよ。だから私はいつも「自分の国だけでコーチするな。外に飛び出そう」って考える。変化を怖れるコーチが多すぎなのよ。そういう人は、何十年も同じクラブでコーチをして居心地よくなっちゃってる。彼ら、絶対損してるよ。
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[アフリカのバスケについて]

Q:オーストラリアで8年間コーチしたあと、何がきっかけでアフリカに来たのですか?

A:才能や潜在能力を見ちゃったからだね。でもその才能や能力を伸ばせるコーチが充分にいない。アフリカのバスケットボールで一番どうにかしなきゃいけないのはコーチングと行政なの。連盟やクラブがきちんと管理されてない。質の高い経験のある適切なコーチがいないと、選手の育成はできないじゃない。それがアフリカのギャップだと思うの。私は自分のチームでそのギャップを埋めることができるし、他のチームにも波及効果をもたらせられる。自分のチーム以外でもゲストコーチをすることもできる。
それに、アフリカにいるのが好きなのよね。人も、街も、美しい景色も、動物も・・・好きになれないものなんてある?っていう感じ。だからアフリカで、好きなところでコーチしようって思った。彼らは才能あるし、熱心に学ぶし、指導しやすい。みんなうまくなりたがってる。コーチとしては、みんなそういうプレーヤーと一緒にやりたいでしょ。だからアフリカに来てコーチすることに何の抵抗もなかったわ。
 

Q:男性チームのコーチになろうと思っていましたか?

A:全然。女性と子供しか教えられないと思ってた。
友達がザンビアの男子バスケチームのプレシーズントーナメントに招待してくれて、私はただの観客として見に行ったの。ヒーローズ・プレイ・ユナイテッドというチームだった。能力があるなぁと思った。トーナメントには勝てなくて、順位はちょうど真ん中くらい。でも、実際、彼らは本当にいいプレーしてたけど、コーチがいなかったのよ。それで、私は彼らのとこにいって頼んだの。性別のことは何も考えてなかった。アフリカなのに、今思うと面白いよね。で、チームのマネージャーのところに行って、「彼らの練習やらせていただけないでしょうか?」って聞いたら、「一回だけならいいよ」って言ってくれた。それで、次の日に練習をして、結局その一回の練習で、ザンビアに引っ越してそのチームをコーチすることになったの。寛大で性別に偏見をもたないクラブ運営者に出会えてすごくラッキーだったと思う。そのプレシーズントーナメントまでは、男子チームのコーチは考えたこともなかったよ。
 

Q:アフリカのバスケットボールの魅力は何ですか?

A:ゲームのペースや激しさが見てて面白いところかな。日本とかオーストラリアのバスケは組織的じゃない。アフリカはもっと、流れに自由なところがあるの。自分達の感じたままにプレーしてる感じ。ルールを作らないわけではないよ。私達もディフェンスルールとかあるしね。ただ、ゲームの流れの中でプレーすることにオープンなんだよね。そこが見てても楽しいし、コーチしてても楽しいと思う。アフリカに来て最初の頃はそれがフラストレーションだったけど、逆に私の方が教わったの。人としてもコーチとしても、もう少し心を開いて、相手の反応を見て、試合に、人生にも、身を委ねることを教えてくれた。全部計画するのはやめよう、って。
 
Q:自由なプレースタイルが自分に合ってたということですか?
A:私にとっての自然体ではなかったね。私自身はすごく体系的な人だから。計画して、準備しておくのが好き。だからここに関しては、私が適応することをありがたく学ばせてもらった。ゆるい人になったわけではないけど、お互いの中間地点に歩み寄ったという感じね。
 
Q:コーチとしては、フリースタイルのバスケと組織的なバスケとどっちがコーチしやすいですか?
A:バスケではいい判断を教えるのがすごく難しい。それはアフリカでも同じ。ただアフリカでは、練習の仕方をちょっと変えて、いい判断をする余地を多めに与えてる。セットオフェンスやチームディフェンスもやるけど、ゲームの中では彼らが違う判断をするということを理解しつつ、「ホーン」とか「フレックス」とかやり始めるのではなくて、もっといろんなプレーをさせるの。だいたい60:40の割合かな。40%は彼らが自由に動いて、私は彼らを信じる。信頼を築く練習だね。そうやって練習で判断力を育てていく。それがコーチの責任だと思ってる。組織的スタイルとかフリースタイルとか関係なくね。

Q:アフリカのプレーヤーは能力も高くて体も強い。そのうちアメリカに勝つと思いますか?

A:アフリカのバスケの発展にはもう少し長い時間がかかると思う。次世代のプレーヤー達は、今よりしっかり教わっててスキルもよくなってる。たぶん、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、アジアのチームに対抗できるアフリカのチームがでてくるのは、その次の後の世代だと思う。王者交代の時期が迫ってることに他の世界は気づいてないけどね。アフリカの行政が良くなってコーチングが良くなったら、それでゲームオーバーでしょうね。だって考えてみれば、アフリカ国籍というだけで、アメリカ人のようなものじゃない。結局のところチームづくりの違いでしょ。どれくらいかかるか予想するのは難しいけど、この10年くらいのアフリカバスケはゆっくり発展してきてて、それが今急速に伸び出した。5年、10年、15年とかかかるかもしれないけど、ワールドカップやオリンピックでアフリカのチームがメダルをもらっている姿を見る日がそのうち来るよ。
 

Q:アフリカの中でも何ヶ国か移動していますが、他の国のチームへの移籍を決断するポイントは何ですか?

A:その国でどんな経験が得られるか、どんな人がいるのか、あと、文化や歴史。そういったところの比重が大きいわね。それとチーム。どんなチームで、一緒にやっていけそうかどうか、どんなチームづくりをしてきてて、どれくらい成果をあげているのか、っていうところも選ぶポイントになってる。自分が人として成長できるか、その国のそのチームに行ってコーチとして成長できるか。成功するチームをそこでつくれるかどうか、といったところだね。
 

Q:「成功」と言ってたけど、何を求めていますか?

A:「成功」は人やチームによって変わってくる。例えば、ケニアの場合、アフロバスケットの選手権を獲得すること。アフロバスケットで勝つことではない。モロッコのAs Saleは、すごく強いチームだから、アフリカリーグで勝つことが「成功」。コーチとしては、それぞれの範疇で引き上げるのが楽しいのよ。ケニアのようなチームを次のレベルにもっていったり、AS Saleを優勝させたりね。
 

Q:アフリカの人たちにとって、バスケットボールというスポーツはどういった位置付けにありますか?

A:アンゴラ以外では、アフリカのどの国も一番人気はサッカー。アンゴラではバスケが一番。だからアンゴラはいつも強いのよね。サッカーはテレビで放映される時間もいっぱいあるし、みんなサッカーのことを話題にしてる。バスケはその次か3番目だね。バレーボールも人気だから、バスケかバレーが2番3番にある感じ。Basketball African Leagueが人気上昇に繋がってるのは間違いないと思う。FIBAの新システムの、ホームとアウェイの試合とか、いろんな選手権大会とか、今はアフリカ中でいろいろ他の大会も行われてるし、スポーツ促進にもなってると思うよ。
 

Q:女性スポーツへの宗教的な影響はありますか?

A:私も、北アフリカやイスラム国家に来た当初はそういうつくられたイメージを鵜吞みにしてた。実際は、モロッコなんかは私が思ってた以上にオープンで自由で、いいところ。そうじゃなかったら私をコーチに雇わないじゃない。女性を蔑むようだったら、私、モロッコでコーチになんてなれてないもの。
私達って、西洋では、アフリカが時代に遅れてるっていうイメージがあるけど、実際はそんなことない。見てよ、私のこの10年。他のどの国が私を男子チームのヘッドコーチに雇うと思う?オーストラリアでもありえないし、アメリカでもありえないでしょ。アフリカの方が先進的なのよ。アフリカの女性は、この10年で、クラブチーム、ナショナルチーム、男子チームのヘッドコーチになってる。それがここの現実。ものすごく大変なことではあるけどね。
それから、アフリカには54か国あって、それぞれ違う。女性がスポーツプレーヤーになるとか、スポーツに参加することさえ許さない国もある。でも、他の国では普通にプレーしてるし、代表に選ばれてる。54か国もあるんだから、一色淡に“アフリカ”っていう見方をしないことが大事だと思う。“アジア”っていうのと同じ。日本、韓国、中国、とかいろんな国があって、それぞれ文化も歴史も違うのと一緒。全部同じにみられるとイラっとするでしょ。
 

Q:青少年のバスケ教育はどうですか?

A:ほとんどの国では、バスケットボールはあるけどあまりやってない。高校になるまではチームも大会もそんなにない。小学生では大会はなくて、学校の授業でやるだけか草バスケだけ。ジュニア世代では組織的なバスケットボールというのはあまりないね。最近、いくつかの国で、少年大会をやり始めたところがあるくらい。だからさっきも言ったけど、行政なのよ。草の根活動をして、子供たちに教えられるコーチを育成しないと。ここが、今のアフリカが最も改善すべきことだわ。
 

[人生について]

Q:子供の頃はどのような環境でしたか?

A:すごく幸いなことに、両親は二人とも私達を大事にしてくれた。私は双子で、他にもう一人、上のお姉ちゃんがいる。何があっても夢や目標を追い続けろっていつも応援してくれた。いい教育も受けさせてもらったよ。スポーツに音楽、あとディベートチームにも参加したりして、社会のいろんなことを体験していろんな興味を育んでこれた。それが丸い人格形成に繋がったんじゃないかな。私はいっつもスポーツに没頭してたわ。おてんば娘みたいにね。いろんな機会があって、サポートしてくれる家族の中でシドニーで育って私はすっごくラッキー。
 

Q:オーストラリアとアフリカとでは、チームワークの築き方に違いはありますか?

A:もちろんあるわ。もし私がヨーロッパやアメリカでコーチをやったとしてもあるでしょう。文化や練習環境が違うもの。だから相手を尊重して適応したり歩み寄ったりが大事だよね。「私はオーストラリア人だから、モロッコでもオーストラリアのやり方をする」っていうのはない。私はどんな環境でもどういった意味であっても役に立てればそれでいい。そういう考えをわかってもらいつつ、相手のバスケの考え方やどんな成功を描いているのかっていうのを学んでる。プレーヤーとコーチ陣と運営側と一緒にチームをつくっているのよ。
 

Q:違う文化にはどうやって適応しているのですか?

A:心を開いて学ぶことだと思ってる。違う国に行く時はいつもその国の事を学習するようにしてるわ。歴史や文化や宗教を調べて、尊重する。例えば、特にルワンダにいた頃は1997年に大量虐殺があった後だったの。だからその歴史や国として今どういう状況なのか、話していいこと話してはいけないことを理解するのが大事だと思った。彼らは歓迎してくれたし、温かくて優しい人達だよ。そこのプレーヤー達が持っているトラウマを理解して歴史や文化を尊重すること。これはどこにいっても同じこと。
それともう1つは、宗教ね。キリスト教の国であろうがイスラム教の国であろうが、尊重しなきゃいけないことだと思う。
 

Q:一番影響を受けた人は誰ですか?

A:カリー・アン・グラフ(Carrie Ann Graf)というコーチだね。オーストラリア女子バスケのコーチ。彼女が何を言ってることとか、どうやってやってるのかを見て、「あの人みたいになりたい。大人になったら彼女みたいになりたい」って思った。私がコーチになったのは彼女が理由。
 

Q:人生においての夢はなんですか?

A:人間みんな同じだと思うけど、周りの人にいい影響を与えられる人、感動をあげられる人になりたい。自分が死ぬまでそういう人であり続けて、死んでからも感動をあげられるような遺産を残したいわね。
 

Q:好きな言葉は何ですか?

A:「人を成長させることで自分も成長する」っていう言葉。人って、他の人を助けることで自分がよりいい自分になるでしょ。私、このことはよくSMSで言ってるよ。「あなたが成長すれば、私も成長できる。私が成長すれば、あなたも成長できる。だから一緒に頑張ろう」って。チームの1人として一緒に頑張ろう、っていうことね。
 

[女性コーチ・女性プレーヤーへのメッセージ]

女性コーチ達へは、達成したい目標を決めようと伝えたい。コーチを始める、でもいいし、チームを優勝させる、でもいいし、男子チームのコーチになるでもいい。とにかく目標を決めて一生懸命に、賢く頑張ること。毎日目標と向き合うの。休みの日なんてないよ。もっと自分を磨いて、経験して、その領域の誰よりも一生懸命に動く。他の人があなたのことをいらないって言ったら、それは彼らの損失で、あなたの損失じゃないからね。あなたは自分自身で他の機会をつくれるんだから。基本的には、今日私がここにいるのはそうやってきたからなのよ。ザンビアでは自分からチームに話しかけにいって、チュニジアでも2019年のワールドカップ選手権のコーチをさせてとチームに話に行った。それで結局カメルーンのコーチ陣にも加われたのよ。向こうから「リズ、一緒にやらない?」なんて言ってくれないわよ。自分から行くの。あなたに気づいてもらうためにそういう機会を作るのよ。これが、若い女性コーチ達への私のアドバイス。それと将来コーチになりたい女の子は、ものすごく一生懸命に、賢く、働く準備をしとくといいわ。人からのノーをもらったら違うチャンスをつくればいいだけ。覚悟を持って強かにね。どんどん外に出ていって楽しむことよ。
 
Q:どうやって自分を信じているのですか?
A:だって自分が信じなきゃ誰も信じてくれないでしょ。疑心暗鬼の時は、気持ちの準備を大事にしてる。私はよく研究してきたし、経験積んできたし、一緒にやってるプレーヤーからも尊敬されてる。私は、ここにいていいんだ、ここにいるために一生懸命に賢くやってきたんだから、ってね。しっかり準備が整えば疑心暗鬼はどっかいっちゃうわよ。
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