【女性バスケコーチ】アシュレイ・ラリー・ロス
「追い続けること」
「私の夢は、夢の中に生きていること」夢は何ですかと聞くと彼女はそう答えた。
ボールがネットを揺らす音に魅せられ、バスケに明け暮れた学生時代。
考えてもいなかったバスケのコーチという職に就き、
結婚・転勤・多様な文化と様々な経験を積み、
今NCAAディヴィジョンⅠの大学バスケで新たな挑戦を始めるコーチがいる。
彼女の名はアシュレイ・ラリー・ロス。
アシュレイはまだ34歳という若さだが、違う国、様々な年齢、レベルの違うチーム、とコーチング経験がすごく豊富だ。
インタビューした時点では香港の子供からプロまでのコーチをしていた。
偶然にも、ちょうどウォフォード大学のアシスタントコーチ就任が決まった時だった。
彼女がこのような充実した夢の道を歩んできた秘訣は何なのか?
今回は、女性バスケコーチとして、そして、1人の女性として彼女に話を聞いてみた。
早速、コーチ・アシュレイから学ばせてもらおう。
[コーチングについて]
A:もともとコーチになるなんて考えていなかったの。
ノースカロライナ州シャーロット大学で4年間プレーをして、その時のコーチが私の中にコーチとしての何かを見つけたみたいで、誘ってくださったのがはじまり。
大学卒業して最初の仕事は、4~5歳の子供たちのレクレーションバスケのコーチ。
そしたらはまっちゃた。
コーチングしてると、若い人から自分の方が影響を受けるし、毎日が新しくてすごくやりがいがあるから好き。
A:私、本当に負けず嫌いだから、勝った時が一番嬉しい。
でもコーチとしては、練習してきたことが試合でできた時。
コート内のプレーヤーが「コーチ、うまくいったよ」って目で言ってきて、私も「やったね!」って返すの。
こういうふうに目が合った瞬間は何にも代えがたい喜びを感じる。
A:(笑)コーチングは簡単じゃない。
一番難しくて、かつ一番大事だと思っているのは、それぞれの個性を理解すること。
誰一人同じ性格の人なんていなくて、それぞれ違うから。話すことが苦手な人もいるし、恥ずかしがり屋な人もいる。
でも、それではバスケはできない。
だから、それぞれの個性を理解して成功の手助けをしてあげることが私にとっては一番難しい。
A:あるある。
ちょうど昨日も、3年前に負けたゲームのことをだんなと話してたの。
あの試合で負けたのは私のせいだ、って。
あの試合に戻れたらもっとこうしてたのに、ってね。
負けた試合のことはいつも考えちゃう。
チームの負けは結局、コーチの私の責任だから。
もっとできることがあったはず。
ただ、それは失敗じゃなくて、成功するのに必要なステップだと思ってる。
プレーヤーにもそう言ってるの。
うまくいかなかったことがあるから学べて、次に同じことがあっても成功するんだって。
A:マインドセットが重要だと考えている。
これは、いくつか違う国でコーチをした経験が役立っていると思う。
国が違うとバスケへの考え方や思いが違うんだよね。
逆に国が違っても同じ考え方を持っていることもある。
そこを理解した上で、チームを伸ばすのに重視しているのはマインドセット。
私のチームには、「できないことは何もない」という心構えを伝えてるの。
最初できなくてもやり続けることで達成する。
プレーヤーには、
私と初めて会った時は違和感を覚えたとしても、チームを卒業する時には、彼らの人生の中でできないことは何もない、と考えられる人になっていてほしい。
もう1つは、コート上でのチームワーク。
ボールを回して、お互いの成功を喜び合うこと。
喜びとかポジティブな態度は伝染していく。
だからポジティブなボディランゲージを意識してる。
ハイファイブ、拍手、応援や笑顔。
だって結局のところバスケはゲームだから。楽しくやらなきゃ!
ストレス感じるものじゃないもんね。
A:コーチとしては、成長させることに意識をおいている。
バスケ的にだけではなくて、1人の女性として。
選手起用では、シーズンの目標を共有して、その目標を達成するために、プレーヤーが持っている最大の力を発揮できるように手助けするのが私の仕事。
シーズン初めは出場時間があまりないプレーヤーもシーズン終わりには出場時間が増える。
たとえそのシーズンに出場できなくても、次のシーズンに出場して、もっと重要な役割を担えるようになっている。
私はメインプレーヤーだけでなく全員にフォーカスしている。
A:成長したプレーヤー達に囲まれてマーチマッドネスでトロフィーをもらっている自分の姿が頭にある。
でもほんとは、バスケを通じてできるだけ多くの人に良い影響を与えていくこと。
小さくても。彼らが出会った人の中で、ポジティブな影響を与えてくれた人として記憶に残っていたい。
[男子チームVS 女子チーム]
A:個人的にはあると思う!
若い女子は特に、オフコートでの関係性やできごとをコート内に持ち込んじゃう。
ロッカールームで話したことが気に食わないからパスをださない、とかね。(笑)
男子にはそれがなくて、練習の途中にけんかしだしたりするけど、ほおっておけば練習が終わることにはベストフレンドになってる。
そういったプレーヤーの感情の違いに対しては自分の中で調整して対応してる。
あと、女子は顔の表情から何を言いたいか組み取るけど、男子は表情を読まない。
これはどこの国でも同じね。
感情ってプレーにも表れるから、男子と女子とではプレーの仕方が違う。
だから私は男子と女子のバスケは2つの違うスポーツだと考えてる。
A:私の方は抵抗受けることをある程度覚悟していたけど、それがね、香港ではそんな抵抗を一切感じることがなくて、コーチとして尊敬してくれてると感じてる。
他の国ならどうだったかわからないけど、私はラッキーだわ。
A:収入に違いをつけるのはおかしい。
だって男性コーチも女性コーチもやってることは同じだもの。
シーズンの長さだって同じ。
たしか統計では、アメリカでは男性が100円得る仕事に対して女性は83円だそうなの。
そんなにすごい差とは思わないかもしれないけど、同じ仕事をしている人にとってはこのギャップは大きい。
ただね、少しづつ変わってきていると思う。
あるべき方向に。
女性コーチの環境改革を始めた組織があるの(Our Fair Shot)。
男性コーチもサポートしてくれてる。
今後どう変わっていくかが楽しみだわ。
A:まだその経験がないからわからないけど、
妊娠に関しては女性へのサポートだけではなく男性へのサポートも必要だと思う。
男性の育児休暇や子育てをしやすい環境がね。
それと、テキサスA&M大学にジョニ・テイラー (Joni Taylor)という女性コーチがいて、コーチと妊娠を上手に両立させていたの。
出産2日後に職場復帰し始めたっていうすごい人。
完全にコーチに戻ったわけではなくて、アシスタント的に横から見て、徐々に戻っていったんだって。
いいコーチって、アシスタントコーチ、スタッフ、プレーヤー、みんなが家族みたいになってるの。
バスケットボールファミリーを育ててる。
子育てとチーム育成の両方はすごく大変だと思うけど、ジョニーは私のモデル。
トップレベルにいても子育てとコーチを両立できる強さを見せてもらった。
[Ashleyの人生について]
A:4歳の時にお父さんが、バスケットゴールを買ってきてくれたの。
重しに水を入れて庭に立てるやつ。
シュートするのが楽しくてしょうがなくて、それからもう頭はバスケのことだけ。
家族は、私の脳はオレンジ色でバスケットボールの形をしている、なんて冗談を言ってた(笑)。
A:私、負けず嫌いで、ドライブやシュートを練習して上達して試合で実際に成功してゲームに勝つのがほんとに好き!
子供の頃にWNBAが始まって、お父さんと観に行ったりプレーヤーに実際に会えたりした影響も大きいと思う。
一度、ワシントンミスティックスが滞在しているホテルに連れてってって頼んだこともあったわ。
チャミーク・ホールドスクロー(Chamique Holdsclaw)に会いたいってね!
私が追いかけていた大学の選手がプロレベルでプレーするのを見ることができたのも刺激的だった。
A:シューターで泥臭いプレーヤー。
必ずリバウンドに行ったし、ディフェンスも激しくあたって、オープンだったら必ず打ってた。
今でもシュートが好き。
時々プレーヤー達とシューティングゲームで遊ぶんだけど、今までで私を負かせたのは1人だけ。
まだタイトル防衛中よ(笑)。
練習の後にこうやって私がプレーヤーとしてコートに立つと関係性も変わるの。
コーチとして、ああするこうするって口でいってるだけじゃなくて、私がプレーする時に実際にやってるのを見せると見る目が変わってくる。
それに、コーチを負かすのってプレーヤーにとって面白いだろうし、私のほうも若さを保てて一石二鳥。
A:私はスポンジのような人なの。
いろんな人の影響を吸収するの。
でもそうだなぁ、だれかをあげるとすると、まずは、ひいおじいちゃん。
今でもひいおじいちゃんが教えてくれたことを思い出すし、今の私の基礎を教えてくれた人。
次に大学のコーチ。
私を信じて大学に誘ってくれたの。私の能力を信じてくれる人なんてそんなにいなかったから大きかった。
彼女の下で2年間プレーをして、彼女はその大学を去ったけど、新しく就任したコーチも影響力が大きかったわ。
だって、WNBAでプレーしていた人で、私が小さい頃から見ていた人だったんだもん。
私達の大学に来ると知った時はほんとビックリ!
後々、彼女がジョンソン & ウェルス大学 (Johnson & Wales University)でアスレチックディレクターをしていた時に私を雇ってくれたの。
今、私がコーチとしてやっていることの多くは、彼女が私達にしてくれたこと。
それから、クロアチアの伝説のコーチ、ジェリコ・シグラ(Zeljko Ciglar)。
彼の下で働けたのも大きい。
彼はクロアチアの女子バスケでものすごい偉大なコーチなのに、私に、私自身の考えで自由にやらせてくれたの。
よく一緒にカプチーノを飲みながら、いろんな知識を教えてくれた。
あの頃より経験を積んだ今は、こういうことを言っていたのかって理解できたり、彼ならこうするだろう、っていう私の指針にもなってる。
私はこうやってたくさんの素晴らしい人に出会えてきてすごくラッキー。
A:もちろん、機会があればやりたい。
WNBAは女子バスケとしてだけではなくて、女子スポーツ界全体への変化ももたらしている場所だから、そういう組織の一員でありたいと思う。
A:朝のエクササイズね。試合の日の朝。
試合前日はフィルムをみたり作戦考えたりして夜遅くなっちゃうから、朝一にワークアウトをして気持ちを整えるのが必要なの。
以前はジョギング派だったんだけど、香港に来てからウェイトリフティングに目覚めたの。
1時間くらいのウェイトリフティングで良い1日のスタートがきれる。
今はパーソナルトレーナーをつけた。
普段私は、チームに対して上を目指すように、自信をもたせるようにコーチングするけど、そのパーソナルトレーナーも私に同じことをする。
それに彼女がいるから、彼女に会いにジムに行かなきゃっていういい意味での責任感が持てる。
いいコーチの存在は大きい。
A:夢・・・難しいな。もう夢を叶えていると思う。
私は自分のやりたい道を歩いている。
いろんな場所でコーチングしたり違う文化も経験してきたし、
毎日起きたら自分の大好きなことができる。これが私の夢。
こういう喜びを大事にしていない人は多いと思う。
そして多くの人が夢を追うことをやめてしまう。
私はバスケが大好き。旦那もバスケが大好きで分かり合える。この生活を続けたい。
私の夢は、夢の中に生き続けること。みんなも夢を追い続けて!
A:F.E.A.R。
頭文字を繋げてるんだけど、F.E.A.Rには2つの解釈があるの。
1つはForget Everything And Run (全て置いて逃げる)。
もう1つはFace Everything And Rise (何事も向き合って戦う)。
困難にぶつかった時、逃げたらその思いはずっと追ってくる。
向き合って戦う方が人生は楽になる。
人生には2つの選択肢があって、右にも左にも行ける。
その一つ一つの選択が人生をつくっていく。
だから私は立ち上がる方を選ぶの。
ジョンソン & ウェルス大学 (Johnson & Wales University)でコーチをしていた時に
チームのモチベーションをあげるのに使った言葉で、
結果、チームは強く団結できた。
それ以来ずっと自分の心に刻んでる言葉。
[女性コーチ・女性プレーヤーへのメッセージ]
あなたには不可能だ、できっこない、って誰にも言わせないで。
女性は、集中すると成功する力があっても、生活の中でいろんなことが起きて妨害されやすい。
人間だからね。
でも、誰にも「あなたにはできない」って言わせないで。
道に障害物があったら、他の道に折れずに突き進んでいってほしい。
[後書き]
アシュレイは、インタビューを申し込んだ時から、とても気さくに丁寧に応じてくれた。
彼女の話を聞いていると、「人生は刹那の連続」ということを思い出させてくれる。
一瞬一瞬の出会いを大事にし、もらったチャンスの中で自分を高めている。
そうすると、次のチャンスが向こうからやってくる。
この連続が今の彼女の居場所をつくった。
「置かれた場所で咲きなさい」(著作:渡辺和子)という本があったが、正にそのものだと感じる。
インタビューの中で、自分は本当に負けず嫌いだと何度か口にしていたが、その負けず嫌いさがあるから、置かれた場所で咲いてきたのだろう。
コーチ・アシュレイが自分の夢に生きれている秘訣は、本性の負けず嫌いさと毎日を大事に生きる意識にあるのかもしれない。
Ashley Raley-Ross
現ウォフォード大学女子バスケットボールアシスタントコーチ
——————————————————————————————————-
インタビュー・執筆・広告掲載・バスケのコーディネートご依頼はこちら。